架け橋大賞記録集

【第1回 架け橋大賞CO(Company)部門賞 大規模事業場部門】                     日本航空株式会社

BCC「がん医療と企業の架け橋大賞」受賞前後の取り組みの変化について(ご報告)

2020年9月22日
日本航空株式会社 健康管理部
奥田 和昭

1.社内の変化

第1回受賞時(2016年11月)以降に始まった治療と仕事の両立支援策の拡充は、本賞受賞の追い風を受け、その後も順調に運用がなされております。現在は勤務復帰時のスタンダードとなっており、ほぼ対象者全員がこの制度を適用して復帰しています。

医療の進歩により治療と仕事が両立できる時代になり、特にがんについては、罹患者も入院治療ではなく、通院治療が主流となっています。

私傷病で休業する場合、当社では本人の有給や繰り越し休暇に加え、最大1年間の社内病気休業制度が適用されます。その後3年間の休職制度があり、長期休業を余儀なくされる場合も治療に専念できる制度を整えておりました。

一方、医学的に業務に復帰するのに問題がない程度に回復した社員が円滑に職場復帰し、その後就業を継続できるために、健康管理実施細則に「職場復帰支援」プログラムを定め、社員の復帰支援を行っています。具体的には、①勤務時間は所定のほぼ80%以上就労が可能であること、②勤務時間の制限は最長6ヵ月程度で解除できると予見されることを満たす社員を対象に主治医の診断書をもとに産業医、本人、職場上司、(必要に応じ)人事部と協議の上、復帰支援プログラムを作成(就業措置に関する意見書の発行)する仕組みが整備されています。

復帰支援プログラムとは、休業期間の長さや体調等を勘案して個々に適応するもので、例えば復帰後 1ヵ月目は「乗務時間40時間制限、路線は国内線と韓国線に限定」、2ヵ月目は「50時間、東南アジア・オセアニア線限定」等、最長6ヵ月の範囲で徐々に制限を緩和していきながら、休業明けの客室乗務員を無理なく確実に復帰させることを目的とした制度です。

なお、安全運航に密接にかかわる運航乗務員や客室乗務員については、6ヵ月を超える休業からの復帰の場合、健康管理部長や産業医、所属の部長等を構成メンバーとする復帰検討に関する諮問委員会を開催し、復帰可否や復帰支援プログラムを、医療職のみならず全社で決定しています。

              

当社では安全管理の観点から、健康管理部に常勤の産業医、看護師、カウンセラー、トレーナー等の医療職を配置して広く社員の健康管理にあたっているほか、客室本部内に客室乗務員に特化して安全衛生管理を担当する部門である「すこやかサポート室」を設置し、客室乗務員経験を有する社員が身近な健康相談などの役割を担いながら、腰痛・航空性中耳炎等の業務関連疾患の対応や、そして、がんに至るまで、日常の安全衛生管理業務を行っています。

がん患者の就労継続を支援してきた成果として、上述の制度、体制をフルに活用することにより、受賞以降、がん罹患で、休業(休職)明け復帰者が、仕事と治療の両立が困難で退職した事例は発生しておりません。(主な退職理由は定年、結婚、転職等)※ 2014年~2018年度にかけて、がんに罹った社員は206人いますが、その内181人が、2019年度開始の時点で元気に働いております。

なお、がんを含む社員の休業状況、喫煙率、婦人科検診受診率等、社員の健康に関するデータは、健康役員会議(JALウエルネス推進会議)等の場で、社長をはじめ健康経営責任者、全役員にも報告され、社員の健康増進、傷病者の復帰支援が就労人財確保の観点からも経営レベルで認識されるようになった結果、各種取り組みが全社で認知され、一層推進されるようになっています。

              

婦人科検診の受診率向上について、以前より費用は2万円を上限に全額健保負担は現在も継続されています。また、健保と共同でする婦人科セミナーや社内ピンクリボンキャンペーンなど、がんをはじめとする女性の健康問題に積極的に取り組んでおります。また、各職場に配置されているWellnessリーダーが、職場固有の健康課題の改善のため、自ら施策を企画・立案してPDCAを回していくWellness活動として、がん検診の受診向上キャンペーンや、講師によるセミナー等にも取り組んできました。

しかしながら、JALグループ健康推進プロジェクト「JAL Wellness 2020」のKPIとして定めている「がん」「女性の健康」に定める各種検診の目標値は、なかなか目標達成に至りませんでした。

そこで、2019年度から、東京地区のみではありますが、定期健診に合わせた大幅な婦人科検診の受診機会増大を図りました。(東京地区で、年間151回以上の大幅機会増)会社として、費用をかけてでも、健診と同様に施設内で、勤務内で、婦人科検診を受診出来る環境を整えたことで受診率が大幅に向上しました。(※ 対象社員の検診受診率は76.6%と、目標の40%を達成)ただ、機会を拡充しただけではなく、e-learningやセミナーによるリテラシー向上、女性の健康に特化した冊子「Women’s ヘルスガイド」の全女性社員への配付(希望者の男性にも配布)、社内で「がん展」の開催、がんのしゃべり場(ぴあステーション)開催等による、従来の草の根活動を地道に続けていった成果とも捉えております。

             

その他、柔軟な働き方(働き方改革)とのコラボレーションも当社の特徴です。治療と仕事の両立のため、医療的な制度だけではカバーしきれないところについて、個別の事情に応じた柔軟な勤務が可能となるよう、時差出勤、フレックスタイム、在宅勤務(テレワーク)、半年休、特別年休積立制度等の働き方改革の制度と掛け合わせ、個別に対応を図っています。在宅勤務についてはスプリット勤務やフレックスを組み合わせることも可能であり、社員の多様なニーズにきめ細かく対応することが可能になっています。

なお、定期健康診断で実施している胃がん、大腸がん、肺がん(健保と会社で費用負担)に加え、任意オプションで前立腺がんも実施しています。2018年度からは、任意ですが、1回まで、ピロリ菌の検査も実施しました。

2.社会への貢献

毎年10月に社内でピンクリボンキャンペーンを実施しています。航空機の特別塗装だけでなく、機内アナウンスでもがん検診の啓もう、チャリティマイルなども実施しています。

一方、がん治療を含め医療は常に進歩しており、社員への就労支援も世の中の進歩や変化にあわせた最適な体制を維持し続ける必要があり、今後も社内は勿論のこと、各医療機関や関係団体との交流・連携を更に深めていく必要があると強く認識しています。朝日新聞社様の「ネクストリボン」での講話等もその一環です。ちなみに、客室が第4回の本アワードに応募し、その結果、発表時に会場にいらした「一般社団法人シンクパール(Think Pearl)」様より、婦人科検診の取組みや、ほっとピアステーションの活動などに関して、「地球女性からだ会議優秀賞受賞」を受賞することが出来、当社の取り組みを社会にご紹介する機会を得ることが出来ました。ここにご報告と御礼を申し上げる次第です。

3.当社のがん取り組みについての経緯、変遷

治療と仕事の両立に関する取組を開始した具体的なきっかけについてお話しいたします。当社では、運航乗務員、客室乗務員を抱えるため、以前より社員の健康管理を厚めに対応してきました。2010年の経営破綻以降、会社を再生させる原動力は社員の心身の健康であるとの経営TOPの考えを明確に打ち出し、健康管理部と社内関係組織との連携をより一層強化し、先ずは病気にならないよう予防的な健康支援の実施、そして、がん等で休業になってしまった場合でも、社内関係部や必要に応じて主治医と連携しながら、早期かつ休業を繰り返さないよう確実な復帰に向け、医療的な見地はもちろん、精神的な支えとなるような本人に寄り添うケアを実施するようになりました。  

具体的には、レセプトデータを基に現状を分析し、特に対策が必要である①がん②生活習慣病③メンタルケアを三本柱とした健康増進計画「JAL Wellness 2016」を2012年10月に中期計画として策定、目標を掲げて地道に取り組んでいくことで、社員が健康で、いきいきとやりがいをもって仕事が出来る体制を構築し、結果として、JALグループ企業理念にある「全社員の物心両面の幸福」の目的達成を図ることとしました。その後2016年には第2次健康推進プロジェクト「JAL Wellness 2020」を開始し、従来の3本柱に加えて、「たばこ対策」「女性の健康」を独立させた5本柱で目標を立て、健康推進に努めています。

以上のように、「がん」については当初より柱の一つとして取り組んでおります。当社の健康経営責任者である副会長の藤田は常々、「現役社員の死亡をゼロにしたい」と言っています。しかしながら残念なことに、未だに現役社員のがんによる死亡はゼロにはなっておりません。検診受診率の向上、生活習慣の行動変容、リテラシーの向上等を踏まえた「予防」施策、万が一、がんに罹患した際の会社としての社員に寄り添った対応と支援の2つの側面から社員の健康を支えてまいります。

4.今後について

進んでいる他社様の取り組みを参考し、今後も粛々と対策を進めてまいります。課題として、首都圏はある程度の体制を整えていますが地方、及び海外のがん検診の体制はまだまだ脆弱であると認識しております。首都圏同様の体制を、どのように地方、海外に展開していくか、対策を講じてまいります。

また、医療の発展に即した各種検査の検診への展開も今後の課題です。例えば当社では、いくつかの理由により胃がん検診を胃部レントゲン検査としておりますが、来たる将来、更に検診に効果的なものが出てくると予想されます。その際に、どこまで社員の立場に立って体制構築を判断、決断していくのか、今からスタディしておく必要があると感じております。

そして、がんと仕事の両立支援策の更なる拡充も必要です。今でも様々な運用を組み合わせ、個々の事情に応じた対応を図っていますが、「ぴあステーション(がんに関するしゃべり場)等を通じて対象の社員の意見をもとに、更に支援策を拡充していきたいと思っています。具体的には、他社様で既にある制度からしれませんが、一定の期間について、通院日を有給無事故扱いで認めることや、現在事務職は 8割勤務からの復帰を基準にしていますが、これを客室乗務員のように、5割から復帰可能とすることを検討しています。

              

当社に限らず、がん罹患者の職場復帰にむけた支援活動にスポットを当てて表彰する本事業は、日々、地道に社員対応をしている医療職にとってのやりがいに繋がります。また、社員からの信頼感の醸成、ひいては社外評価にも繋がり、更に企業にとっては採用競争力向上による人財確保にも繋がる大変意義のある事業だと考えます。本事業に応募させていただくことは当社にとって非常に光栄なことであり、今後も継続した事業のご展開をお願い申し上げます。

以上

<参考>第4回虹の架け橋賞受賞(2019/11/17)前後における客室乗務員の社内施設での婦人科検診受診率

※2019年10月~2020年2月
①マンモグラフィ
②乳房超音波(エコー)
③子宮頸がん細胞診
④ヒトパピローマウイルス検査(HPV検査)