架け橋大賞記録集

【第2回 架け橋大賞最優秀賞】 福井県済生会病院

第2回架け橋大賞 最優秀賞を受賞して

福井県済生会病院 副院長 集学的がん診療センター長 宗本義則
経営企画課 吉川千恵

当院は2003年にがん診療連携拠点病院の指定を受け地域のがん医療の中核として、患者さんの立場に立った質の高いがん医療の提供の為様々な取り組みを行ってきた。2007年にがん診療推進センターを開設、更なる強化を図る為、2011年5月に「集学的がん診療センター」として新たに活動している。

【がん治療と就労の両立支援に取り組んだ経緯】

患者サービス機能を集約した患者総合支援フロアが2013年7月に新館に開設され、これまで病院の各部門に点在していた医療相談や説明担当スタッフが集約された。これを機にがん患者への支援充実を目的に、フロアの集学的がん診療センター内に「がん相談支援センター」を移転させ、その一環として就労支援についても取り組むことになった。当時、がん相談支援センターに寄せられる年間2,000件余りの相談のうち、最も多いのは医療費・生活費の悩みで全体の約15%を占めていた。一方、就労そのものに関する悩みは全体の約4%程度とわずかではあったが、経済的な悩みと密接に関連し、さらには生きがいとも重なってくるので、患者さんの相談ニーズがないからといって重要な問題ではないと片付けられるものでないと考えた。また就労に関する相談があっても、労働・社会保障制度の説明やハローワークへの誘導に留まっており、離職したがん患者から再就職の相談を受けても患者さんの自助に任せざるを得ないという現状であった。そこで新たに長年労働行政に勤務し就労支援業務に精通する職員(社会保険労務士)を就労支援担当相談員として配置し、ハローワークとの連携をより一層図ることにより患者さんが希望する事業所に就職できる支援制を整えた。当時病院とハローワークが連携してがん患者の就労を支援するのは全国的にも珍しく、福井県内では初めてのことであった。診断・治療から職場復帰まで、総合的に支援し安心して治療に臨める環境の提供に繋がると考え実現に向け取り組みを開始した。

これら当院の取組が厚生労働省で認められ2014年4月からは国の就労支援モデル事業として指定を受けた。

更に2017年1月から福井産業保健総合支援センターと連携し、両立支援促進員による相談会を開始。治療と仕事の両立に関する様々な相談、職場復帰後や健康保険や傷病手当などについての相談に対応している。

実際の運用は次の通りである。

  1. がん患者の就労に関する相談対応(月~金)
    就労相談票の内容を基に病院からハローワーク福井担当者に連絡
    ■ハローワーク専門援助部門
    ■ハローワーク専門援助部門 就職支援ナビゲーター
    ※患者の同意を確認後、就労相談票をFAXしハローワークでの面談予約
    →就労に関する情報提供(緊要度・意欲・生活(家族)等)
    →個別求人開拓の依頼

  2. ハローワーク就職支援ナビゲーターによる相談会の開催(2013年10月~)
    【対象】
    がん患者(原則当院通院、入院中の方)
    【相談会会場】
    南館1階 メディカル情報サロン(メディカルカフェ時実施)
    【日時】
    毎月第1金曜日(祝日を除く) PM1:00~PM3:00
    第3金曜日(祝日を除く) PM2:30~PM3:30
    【対応者】
    ハローワーク福井の就職支援ナビゲーター、がん相談員
    【その他】
    当院がん相談員と就職支援ナビゲーターによるカンファレンスを実施
    がん患者は長期に渡り就労に制限を受けたり、就労が困難になる場合が多いことを考慮し、ハローワークで障害者や難病の患者さんのような就職困難者の支援を行う専門援助部門に担当を依頼。専門援助部門が担当することにより、迅速かつ的確に各種情報が収集でき、きめ細やかな支援が可能。

  3. 産業保健総合支援センター両立支援促進員による相談会(2017年1月~)
    【対象】
    がん患者(原則当院通院、入院中の方)
    【相談会会場】
    本館1階 正面玄関前 総合サービスカウンター(必要に応じて個室対応)
    南館1階 メディカル情報サロン
    【日時】
    毎月第2金曜日(祝日を除く) 10:00~13:00
    【対応者】
    福井県産業保健総合支援センター両立支援促進員(社会保険労務士)
    【その他】
    主な相談内容は、治療と仕事の両立に関する様々な相談、職場復帰後のことについて
    傷害年金や傷病手当などの手続きについて

患者さんからは、「病院がハローワーク等と連携して、就労支援をして頂けるのはとても心強い。なかなかハローワークには行きにくいので、こういったサポートがあると大変ありがたい。」等の声を頂いている。

2016年4月からはハローワーク出張相談会を月2回に増やし更に利用しやすい環境にした。働くことへの不安は脱毛など治療に伴う外見の変化と関連性が大きいため、2回目の相談会はウイッグ相談会と同日に行っている。また、緩和ケアチームが全入院患者に対して実施している「生活のしやすさ質問票」を使いスクリーニングにも積極的に取り組んでいる。

仕事に関する不安や悩みの項目にチェックを入れた患者さんには、必要に応じてがん相談支援センターのがん相談専任看護師が病室で、悩みを伺ったうえで出張相談窓口への誘導を行っている。

その他医局会議の場を利用して院内のすべての医師に対して経済的な問題で悩んでいる患者さん・ご家族が多いことを伝え受け持っている患者さんに就労にかかわる不安が少しでも見え隠れするようなら、がん相談支援センターにすみやかに紹介することを促した。これは患者さんの社会的な問題には関心がないという医師も少なくないため、周知を徹底していくことが肝心と考え行った。

このようにがん治療と就労の両立支援について様々な取り組みや周知活動を行ってきたが、まだまだがん患者さんやご家族、企業や地域の皆さんに知っていただく必要があると強く感じていた。そこで2017年11月23日に開催された第2回BCC架け橋大賞の事を知り応募に至った。第1時審査、第2時審査を経て、「隅々まで網羅的に目配り気配りが行き届いた就労支援を展開されていることが高く評価されました。就労支援窓口があり就職支援コーディネーターが積極的に活動されていること、地域の労働行政などとの連携で取り組む課題を抽出し、ワークフローを作成し、活動し、その評価を行ってさらに発展させておられることが素晴らしく、今後の更なる充実が期待されます。」との評価を受け「最優秀賞」を受賞することができた。

【受賞したことによる効果】

この受賞を福井県内にニュースリリース。県内主要新聞社3社に掲載された。福井県内において75%以上のシェアを占める新聞への掲載により多くの県民に「がん患者さんの就労支援」について知ってもらう機会となった。また同時に院内職員へも再度周知することができたと考える

20171214 毎日新聞掲載
20171214 福井新聞掲載
20171230 日刊県民福井掲載

また、厚生労働省より「令和元年度がん患者の治療と仕事の両立支援モデル事業」の対象病院として採択を受けた。この事業は、がん患者の治療と仕事の両立支援の推進を図ることを目的に平成30年度にスタートし17施設が対象病院に選ばれた。2年連続選出された対象病院は全国6施設で、当院は北陸地方で唯一の対象病院となった。

更に2020年5月、これまでがん患者さんのみを対象にしていたが、他の患者さんからの要望に応え、がん以外の長期療養者(脳卒中、肝疾患、指定難病患者や慢性腎疾患(透析患者))にも対象者を拡充した。

このように受賞したことにより社会への貢献・院内への貢献に大きな変化があったと考えている。

今後はコロナ禍において、両立支援の体制をどうすべきか、様々な制限や制約の中、新しい支援方法を見据えて考えていきたいと考える。コロナ禍だからこそできる支援も模索していきたいと思う。

また両立支援に関しては今まで医療者は、病院の中だけで解決するような運用をしていたかもしれない。しかし、このBCCのいろいろな取り組みをみて病院と企業の強い結びつきが必要ということがよくわかった。企業の産業医・産業衛生に携わる看護師、保健師などと共によりよいシステムを構築するために、今何をすべきかを真剣に考えるようになった。院内の連携はもとより、企業の産業医や産業衛生に携わるスタッフとのコミュニケーションをより綿密に図り、地域や多くの企業に出向き連携することを行っていきたい。病院と企業それぞれの立場をよりよく理解することが、よりよい支援に繋がると信じている。

今後も、このすばらしいBCCという審査システムが各医療機関・企業などの目標となり切磋琢磨して、がん患者やがん以外の長期療養者のためになるような行動・取り組みを行い、システムとして構築されることを強く望んでいる。