架け橋大賞記録集

【第2回 架け橋大賞支援団体賞】 NPO法人京都ワーキング・サバイバー

受賞後の取り組みの変化~京都ならではのがん患者支援~

NPO法人京都ワーキング・サバイバー 理事長 前田留里

当NPO法人は、2017年の第2回BCCで支援団体賞をいただきました。

働く世代のがん患者当事者の視点から、がん患者やそのご家族が集う定例サロンを平日夜間に設定し、キャリアコンサルタントや社会保険労務士など専門職のスタッフと共に悩みや問題の解決策を考えています。会場はオフィス街にある“がん封じのお寺”で、場の力も借りて開催し、若い方向けの啓発活動として大学生とコラボレーションした冊子なども評価していただきました。

私達は治療と仕事の両立支援だけでなく、この先もずっと続くサバイバーシップ支援が必要と感じています。

診断された時や治療中は手厚い支援が広がりつつありますが、長く続く治療、経過観察中や主治医から検査不要と言われた後も、生活の中に『がん』という存在を抱えて生きていきます。

働く世代にとっては、ライフステージが変わるたびに様々な問題が生じます。その時に、医療者や職場、家族にも話しにくい小さな棘のような思いを話せて、一緒に考えてくれる仲間や場所が必要であり、時代のニーズに合わせた支援を継続していく必要があると考えています。

今回の受賞は、自らが仕事と治療の両立を実践しながら活動するスタッフの大きな励みとなりなりました。

         

また、受賞したことで全国の取り組みにも触れ、京都だからこそできる患者支援は何かを新たに考えるきっかけにもなりました。

そこで、2018年秋に紅葉の庭でがん患者さんが家族や友人と着物を着て写真撮影を行い、1日笑顔で過ごしていただくイベントを企画しました。

着物イベントのチラシ。
ビューティーレッスンや上方落語も実施
 
   

がんを経験した方にとって、腹部や胸部を締め付ける着物はハードルが高いものです。しかし、京都には着物のプロフェッショナルがたくさんおられます。私の知り合いにも呉服屋で育ち、がんも経験し、着付けの普及に努めるNPO法人の理事長がおられ、イベントの相談に行くと悩む間もなくぜひ協力したいと申し出てくださいました。

着付けについては、事前の打ち合わせでさまざまな副作用や障害をお持ちの方がおられることを伝えしました。すると、裾を切ったガウン式の着物を用意してくださり、胸腹部を締め付けなくても着られる準備をしましたが、ほとんどの方は普通の着物を着ることができ、なおかつ『苦しくなく、でも着崩れない』という経験をしていただきました。日常的に着物で生活している着付けのプロですので、どのようにすれば着崩れず苦しくないか熟知しており、快適な着付けをしていただくことができたのです。

当日は、入院中で外出許可を取って来られた方、オストメイトの方、胸部や腹部の手術歴のある方、抗がん剤中の方、酸素が必要で車椅子の方などを含めた約40名の患者やご家族、ご友人が参加し、紅葉を背景にプロのカメラマンの声かけに照れながらも、たくさんの笑顔を見ることができました。

家族写真の一例
スタッフとNPO法人新日本和道振興会の宮田理事長

イベントから半月ほどして、参加者の娘さんからお母様がお亡くなりになったとご連絡をいただきました。お母様は着物が着たい、みんなと写真を撮りたいとがんばっておられ、着物イベントが家族で出かけた最後の外出であったということでした。

カメラマンが撮った写真はみなさんに無料でデータをお送りしました。写真を改めて見ると、親戚家族に囲まれ、娘さんと寄り添い微笑む素敵な一コマがあり、がん患者や家族支援は情報発信や啓発活動だけでなく、生きる力を育めるようなイベントも必要だと実感しました。着物イベントは2回目の開催も検討しています。

                    

今年はコロナ禍で通院時の感染不安や治療の遅れなど、患者さんにとっては命の危険をさらに感じる毎日でした。職場環境の変化に伴い、在宅ワークができない職種や契約社員は職を失うなどの影響を受けた一方、在宅ワークが可能な職種や休日が取りやすかったことなどで両立しやすい方もおられました。

対面サロンは中止せざるを得なくなったため、メールでの相談やSNSでの情報発信を行いました。オンラインでの交流会やYoutube、ツイッターなど新たな発信の仕方もスタートさせ、直接会わなくても思いは繋がれるという新たな発見もありました。

                    

働く世代のがん患者やご家族は、困っていてもすぐに頼らない方が多く、定例サロンに参加されたり、相談窓口に来られる方は一握りです。しかし、『支援の場があることを知る』だけでも力になっていると考えています。頼れる場があることは “お守り”になり、「まだ行かなくても大丈夫、まだがんばれる」、そうして毎日を歩めるのだと思い、発信の必要性を感じています。

                     

今後も「がんだからできない」をひとつでも減らせるよう、「がんだけど、どうしたらできるだろう」という視点を持ち、今、困っている人への支援、今後困らないための支援、変化する時代のニーズに合わせた支援を行っていきたいと考えています。

また定例サロンでの患者の切実な思い、願いを代弁することも患者団体として必要です。そのため、医療者や社会への発信と、連携を図りながらがんになっても自分らしく生きられる社会の構築に貢献したいと考えています。