架け橋大賞記録集

【第2回 架け橋大賞小規模企業賞】 ヘルスデザイン株式会社

第2回(2017年)架け橋大賞小規模企業賞を受賞して

ヘルスデザイン株式会社

1 ヘルスデザイン株式会社のご紹介

私たちヘルスデザイン株式会社は、2017年度の第2回がん医療と職場の架け橋大賞における小規模企業賞を受賞させていただきました。

私たちの会社は設立2015年と若い会社ですが、がん医療と職場の架け橋に関する活動自体は以前から、職場の健康管理(産業保健分野)において、がんを患った方の職場復帰支援を中心に産業医や保健師として長年携わってまいりました。そして、2015年から会社として、首都圏の中小企業を中心に、産業医および保健師業務の業務委託を受けて活動をしています。現在のスタッフは産業医4人、保健師3人、衛生管理者1名によるチームで仕事を行なっており、最近では50人未満の会社様からもご依頼をいただき、そこでは保健師が中心となってその会社の健康課題に関する相談対応を受け付けています。

2 小規模企業賞の受賞の前後を振り返って

受賞以前から、産業医や保健師としてがんの医療と職場の架け橋の一端を担うべく、活動してまいりました。がんを持った方の医療と仕事の両立に向けて、個別対応として、真摯に面談を行い、関係者と話を進めながら対応に注力してきました。

受賞後も、産業医、保健師としてがん患者様の医療と働き方の両立支援を図るという基本スタンスは変わっておりません。会社としてはさらに社会貢献を図るべく、各企業に情報提供を図るように努めています。2013年の厚生労働省による実態調査においても、がんと診断された方で働いているのは半数に留まっており、依願退職されたり、解雇されたりした方は34%に及んでいます。理由としても、「仕事を続ける自信がない」「迷惑をかけると思った」「治療で休みを取るのが難しいと思った」など、まだまだ情報発信が足りず、支援を必要とされている方が多くいらっしゃるのを実感します。私たちは産業医、保健師として働く人の健康を守るため、会社のキーパーソンや主治医やその他多くの関係者と調整を図るという役割を担っています。私たちの取り組みや考え方を、会社や様々な会社、地域社会に情報発信をして、少しずつでも広めていくことが今後の私たちの大切な役割ではないかと考えております。 

小規模企業賞を受賞したことで、どんなことに取り組んでいるのか、と興味を持ってくださる方は増えたように感じています。例えば、弊社の来客ブースに受賞記念の盾を置かせてもらっていますので、それを見て興味を持ってくださる方もいます(写真)。このような機会においても、がんの医療と働くことの両立には何が大切か、どのような取り組みを行なっていくことが大切か、などを説明する機会が増えています。

 また、がんの早期発見についても啓発することに力を入れています。会社には毎月、衛生委員会という健康課題に関して議論する会議があり、そこでがん対策の重要性をことあるごとに説明するようにしています。働き世代にとって、在職死亡の最も主な原因となっているのは、循環器疾患やメンタルヘルス不調によるものではなく、「がん」です。私たちの健康を保つ上で、知っておかなければいけない病気について、検診受診や検診後の対応などについての情報を周知していくのは私たちの役目だと思って活動しています。企業で毎年行われている健康診断でもオプション検査等で、便潜血検査やピロリ菌検査、乳がん検診、子宮がん検診などの有効性が認められているがん検診の検査項目を取り入れるように、各企業担当者に説明して勧めています。

また、受賞したことによる会社内部の効果として、社員一同、このような貴重な受賞の機会に恥じぬように、がん医療と職場の両立についての知識をさらに深め、職域の現場ではより丁寧に、より真摯にがん患者様の対応支援を行うように、仕事に向き合っています。

3 受賞後に対応してきた両立支援の例

受賞前後を通じて、さまざまながんをお持ちの方と面談をさせていただき、職場復帰支援に努めてまいりました。次に対応させていただいた方々の例を挙げさせていただきます。

(1)大腸がん治療中の20代男性です。2019年の会社の健康診断で便潜血が指摘されて、ご本人は若いから大丈夫だろうということで何も気に留めず受診をしていない状況がありました。精密検査を受けるように受診を促してもなかなか関心が向かなかったのですが、繰り返し面談を行い、念のために大腸内視鏡による精密検査を受けてほしいと説明しました。その結果、精密検査受診につながったのですが、そこで大腸がんが見つかりました。早期ではありませんでした。私たちも、その方の年齢がまだ20代と若かったので大変驚きました。治療の経過は、外科手術の後に化学療法も併せて行われました。3週に1度の点滴治療と、内服薬による治療が行われました。本人は仕事のやる気が人一倍ある方で、早く出社したいという思いがありました。しかし、ちょうどコロナウイルス感染拡大の時期(2020年4月〜6月)で、抗がん剤投与中の状況で電車通勤して良いかどうか、職場内で感染しないか、という懸念がいくつかありました。このような感染拡大が広がっている特殊な環境において、次のような取り組みを行いました。

  • 主治医への問い合わせ:就業にあたって気をつけるべきこと、感染しやすいかどうかの医学的情報(易感染性の有無)等についてお伺いするため、主治医へ手紙にて確認を行いました。
  • 上司と人事との連携:この方にどのような就業上の配慮を行えば、医療と仕事の両立が図れるかについて、面談にて協議を重ねていきました。
  • ご本人と面談:ご本人と面談を何度も行い、どうやって医療と仕事の両立を進めていくのが良いかについて、ご本人の思いを尊重しながら、進めていきました。本人には出社したいという思いと、しっかり治療をしたいという思いが混在していました。面談ごとにその時に考え方が変化していく状況もあり、その心境の変化を受容しながら、上司と人事にフィードバックを図って課題の調整を行いました。
  • 結果として、通勤時間帯の混雑緩和や、職場では密にならない場所に座席を変更して業務を行ってもらう、当面の間は通院治療を要する日があるといったことを職場の上司や同僚に理解してもらう、などといった調整を行い、医療と仕事の両立を支援することができました。

(2)悪性リンパ腫を患って、定期的な検査をしながら、経過観察をされている40代女性の方です。私たちはご本人の不安に思う気持ちに寄り添いつつ、どのような経過観察のスケジュールなのかを確認し、それに伴って主治医にどのようなことを聞いてみるのが良いかなどコミュニケーションをとっています。仕事は精力的に取り組んでいる方なので、働きがいを持って仕事をすることは応援しつつ、一方で、仕事の負担が体の重荷になり過ぎないように私たちとしては見守っています。

(3)50代前半の膵臓がんの方です。人間ドックで偶然に膵臓がんが見つかり、早期段階として手術しました。その後、1年ほどは問題なく仕事をすることができていました。しかし、ある時、定期通院での検査で再発が指摘され、その後、化学療法を行うことになりました。化学療法中は仕事をどうするか、いつから休んで、いつから復帰するかなどについて主治医からの説明をもとに、ご本人の希望をお伺いしながら面談を進めていきました。ご本人は治療をしっかりとやりたい、仕事も長年やってきたものなので責任を果たしたいという思いがありました。私たちとしても医療と仕事の両立を図るべく、どのような働き方が良いかを模索し、時間短縮勤務を使ったり、病気欠勤をとっていただいたりするなかで、治療状況を見守っていきました。残念ながら、最近亡くなってしまいましたが、その数ヶ月前までは職場の同僚とコミュニケーションをとって仕事に努めておりました。もっと良い支援ができたのかもしれません。しかし、本人にとってやりがいのある仕事を最後まで希望して続けられ、会社はがん治療を支援するという形ができたことは、本人にとっても、それを支援するご家族、そして会社にとっても幸せなことだったのではないかと思っております。

(4)喉頭がんの50代後半の方です。喉頭を手術していたので、発声ができない状況になっていました。そのため、筆談を交えながら職場復帰を進めていきました。職場復帰について医療と仕事の両立が進むように、筆談ボードを用いて、職場復帰後に声を出さなくてもできる仕事内容はあるか、どんな配慮が必要かについて上司とともに協議を重ねました。その結果、職場としても声を出さなくても済むような職務内容になるように配慮していただくことで無事に職場復帰に至ることができました。

(5)40代の乳がんの方です。全身転移している状況が病院で検査をした際に分かりました。化学療法を選択し、治療状況を見ていくことになりました。薬もしばしば変更しながら様子をみていきました。このような治療の中で、約1週間の海外出張でその方の専門分野を発揮できる仕事がありました。その方の専門分野を生かせば、海外出張先でも活躍が期待され、本人も海外出張を希望されていました。しかし、抗がん剤治療中で、体力の低下の問題や感染しやすくなっているのではないかということから、海外出張をさせて良いのかどうかということを会社と一緒にとても悩みました。もし海外で何か起きたらどうするのかなどの対応も含めて、様々な観点から考える必要がありました。そのために、会社の上司や人事と協議を行い、私たちからは主治医に手紙を郵送して、海外出張ができるかどうか、海外ではこのような仕事内容になるなどを詳細に伝えて、もし海外出張が可であればどんな対応が必要であるかなどについて、やりとりしました。海外出張中の民間の医療支援サービスにはどのような内容があるかについても調べました。結果的に海外出張ができるという判断に至り、そして無事に1週間の海外出張を遂行することができました。ご本人も働きがいを持って無事に海外出張をすることができた、その間の体調は問題なかったととても喜んでおりました。

医療と仕事の両立支援の方法やそのゴールについては、100%の答えはないと思います。実際に、配慮事項を考えるべきことも多いですし、仕事と医療の両立についての価値観も人それぞれです。しかし、ご本人の考えていることを基本に、さまざまな関係者にヒアリングを進め、どのようなことに気を付けて、どのようなサポートができるかを考えていくことが両立支援であり、そして私たちがその役割の一つを担っているのだと認識しています。今後も継続的に両立支援に努めていきたいと思っております。

4 今後、さらに小規模事業所での架け橋になるために

これまで述べさせていただいた通り、日々、目の前のがんを患った方の対応に真摯に取り組み、多くの関係者の調整を図って、うまくリードしたり、難しい医療情報を翻訳しながら、医療と仕事が円滑に進めていけるように心がけて、がん架け橋大賞の受賞を励みにさらに推進してまいりたいと思っております。さらに、昨今では、在宅勤務が急速に進んでいる状況があり、働き方も変わってまいりました。今までの働き方が常識ではなくなり、新しい生活様式に順応していく必要も出てくると思います。がん医療と職場の架け橋として、今までの対面面談を重ねることに加えて、オンラインでの面談を活用したり、時差出勤や時間短縮勤務という選択肢以外にも、在宅勤務制度の活用という選択肢が増えてきていると思います。今後は時代が進むとともに、さらに医療と働き方を両立するための選択肢が増えてくるかもしれません。ただ、そのような選択肢が増えてきた中においても、それらをうまく活用していくためには、私たちがファシリテーターとなって、事業所の経営者や上司の方々、人事総務の方々の理解を高めながら、皆で一丸となって取り組んでいくことが必要だと思います。現場での実践はもちろんのことですが、これらの経験を通じて、職場に理解をいただくために、セミナー開催など様々な機会を設けて周知を図っていくことが、今後我々に求められていると思っています。

私たちの使命は、がん医療と仕事の両立に向けて、特に中小規模の企業様に対して、さらなる展開を図ることだと思っています。微力ではありますが、そのわずかな力でも少しずつ社会に情報発信をしていくことで、日本で働く多くの方々の支援を底上げしていくことができればと思っております。今後も研鑽を重ねていきたいと思いますので、引き続き宜しくお願い申し上げます。