架け橋大賞記録集

【第3回 架け橋大賞最優秀賞】 アフラック生命保険株式会社

アフラックの「がん就労支援」の取り組みについて

アフラック生命保険株式会社 人事部

当社では、仕事と治療の両立支援に関する様々な取り組みについて、2018年に相談・両立・予防を柱とする「がん・傷病 就労支援プログラム」として体系的に整備し、全社的な取り組みを加速してきました。当社が「がん就労支援」に取り組んできた背景、主な取り組みの概要、受賞後の取り組みについて以下に紹介します。

1.当社における「がん就労支援」の取り組みの背景

当社は、「がんに苦しむ人々を経済的苦難から救いたい」という日米両国の創業者の強い想いのもと、1974年に日本で初めて<がん保険>を提供する生命保険会社として創業しました。その想いは、ブランドプロミスの「『生きる』を創る。」などとともに当社のコアバリュー(基本的価値観)として脈々と引き継がれています。

こうした価値観は、社員*1に対しても共通するものです。当社には、「人財を大切にすれば、人財が効果的に業務を成し遂げる」という言葉があり、社員ががんや病気にかかっても安心して自分らしく働くことを支援するという取り組みは、まさにこれを体現したものです。こうした取り組みを社内だけでなく、社会に広く伝えていくことは、当社が掲げる「CSV経営*2」にもつながるものと考えています。

*1 2020年3月末時点、社員数は5,134人(男性2,537人、女性2,597人)
*2 社会と共有できる価値(Shared Value)を創造(Create)していく企業経営

2.主な取り組み内容

2018年、当社は相談・両立・予防を柱とする「がん・傷病 就労支援プログラム」として体系的に整備しました。従来から、社員が病気に罹患した場合の休職制度、サポート体制など社内の制度はいろいろと整備してきましたが、当事者と関係者以外の社員には、自分が病気になった時、どのようなサポート体制があるのかは見えにくい状況でした。

そこで、2018年に両立支援プログラムとして整備するとともに、社内イントラを活用して情報の一元化を図り、情報の見える化も行いました。これによって、すべての社員が大きな安心感を得られたと考えています。

以下は、「がん・傷病 就労支援プログラム」の詳細です。

(1)相談

社員が安心して必要な相談ができる体制を整備しました。なかでも当社ならではの取り組みは「All Ribbons(オールリボンズ)」という、がんを経験した社員のコミュニティです。こうした企業内コミュニティは、2017年の立ち上げ時は非常に珍しい取り組みでした。

きっかけは、人事部から数名のがん罹患社員に会社への要望等を聞いたところ、「社員でつながる場があると安心できる」という声が複数寄せられたことです。

がんに関する情報は、ネットに溢れ、病院での患者会や社外のサークルなどもあります。しかし、同じ会社の中でどう働くか、どう治療と両立するかということは、同じ会社の仲間だからこそ、相談できることであり、共感しあえるものと考えました。

そこで、2017年11月に人事部がメンバーを公募したところ、13名の社員が全国から集まりました。現在では22名(男性10名、女性12名:2020年9月末時点)で活動しています。メンバーは、「ピアサポート」という、当事者間だけでの経験の共有にとどまらず、自分の経験を社員のために活かしたい(キャンサーギフト)という想いを持って活動しています。彼らの活動は、他の社員にとっての安心感にもつながり、また、こうした会社の取り組みを誇りに思うという声も寄せられています。

「All Ribbons」の活動の柱は以下の3つです。

① ピアサポート

メンバー同士の交流のほか、両立体験談の社内イントラでの公開、相談窓口での対応を行っています。

② 両立環境づくり

制度や運用づくりの意見交換、啓発等を行っています。

両立のための制度や運用の見直しにおいては、メンバーが当事者として感じたことなどを踏まえて人事部と議論を重ねたことで新たな制度を形作る原動力になりました。

③ ビジネス支援

当社のビジネスにがん罹患者の声を反映させるために、罹患者向けSNS「tomosnote(トモスノート)」のユーザーテストに協力するなど、メンバーの声を活かすことでより実効性のある施策を実現しています。

(2)両立

仕事と治療の両立のために、真に必要な制度や職場環境の整備を行っています。

① 制度の見直し

各種制度については、現在の医療の進化や、がんの再発・長期化のリスクを踏まえて、人事部が「All Ribbons」のメンバーの声をもとに大幅なリニューアルを行いました。

医療の進化により、がんでも通院の治療が増えることで仕事と両立できるようになっています。例えば、放射線治療などは、治療は数分、病院滞在も数時間と、身体的負担も比較的少なく、治療後に仕事に戻ることもできますが、治療には数週間、毎日通う必要があります。このため、社員にとっては、長期間の休みではなく、1日あるいは時間単位での短い休みの方が利便性が高いのです。そこで、入院、療養を前提とした長期間の休暇取得を想定した従来の制度から、1時間単位での有給休暇・積み立て年休、1日単位での傷病欠勤・休職など取得しやすい形に見直しました。

また、再発、長期化のリスクへの対応も行っています。「All Ribbons」と人事部との意見交換では、「有給休暇がなくなり、会社を辞めないといけない」「自分の居場所がなくなる」という不安の声が数多く寄せられたため、がん治療のための無制限の休暇「リボンズ休暇」を新設しました。10日分は有給、それ以降は無給ですが、1時間単位でも取得できます。これは、がんで会社を辞めさせないという強い会社の決意を示したものです。これまでに4名の社員が利用しています。

また、働きながら治療を続けられるように時間と場所の制約をなくした各種勤務体系(フレックスタイム制度、時間単位年休、在宅勤務、サテライトオフィス勤務など)も整備しました。これらは、がんなどの病気を持つ社員、育児や介護を担う社員のほか、とくに制約を持たない社員も全員利用することができ、全社員にとって万一のときの安心感につながっています。なお、2020年、新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、こうした従前からの取り組みのおかげでニューノーマル(新常態)における新しい働き方にもスムーズに移行することができました。

② 社員への周知

社内の各種制度などさまざまな情報を集約しておくことも社員の安心感につながります。

2017年11月に社内制度やコミュニケーションのポイントなどをまとめたハンドブックを発行し、2018年4月に社内イントラでも公開しました。

これらの情報を一元化しておくことで、もし何かあったら、ここを見ればよい、という安心感が持てるようになったという声もきかれます。またe-learningや「All Ribbons」の協力によるパネルディスカッションの開催など、社員が職場の環境づくりを考え、実践するきっかけとするための機会を定期的に設けています。

③ 支援体制

がんをはじめ病気やけがをした時は、上司・人事部・産業医の三位一体で支えています。 その際、上司が対応に一人で悩むのではなく、人事部や産業医と連携する仕組みによって上司も安心してサポートできる体制を整えています

(3)予防

社員のがん検診受診率向上のために、社員への働きかけとともに、受診しやすくするための取り組みも行っています。がんにかかっても、早期発見できれば、治療の負荷も少なく、仕事との両立における負担もより少なくすることもできるかもしれません。これは、会社にとって大切な社員を失わずにすむということを意味しています。がん検診は法で定められた基準より幅広い対象者、頻度でに実施していますが、いずれも一般的な割合より高い受診率となっています。

また、禁煙もがん予防の重要な取り組みと考え、2018年5月から禁煙プログラム(Aflac Smoke-Free Program)を整備し、ビジネス禁煙365(全営業日就業時間内全面禁煙)、卒煙プログラムなどを展開しています。

3.「がん医療と職場の架け橋大賞」受賞後の取り組み

2018年11月、当社は「第3回がん医療と職場の架け橋大賞」最優秀賞を受賞しました。

外部から当社の取り組みを高く評価いただいたことは大きな励みとなり、さらに活動を広げる原動力となっています。2019年以降の当社の取り組みについて紹介します。

(1)社内での取り組み

両立支援の環境がどの職場においても定着することを目指して取り組みを強化しています。

① 管理職向けの取り組み

社員ががんに罹患したとき、最初に相談・報告を受けるのは人事部ではなく、直属の上司です。そこで、いざという時、どの職場においてもしっかり対応できるような環境醸成を目的として、2019年に全管理職が集まる会議で「All Ribbons」メンバーのパネルディスカッションを実施しました。また、部下を持つ全管理職(440名)向けの必須研修として「職場のがん治療と仕事の両立支援講座」を実施しました。本研修は、外部講師と社内産業医の講演のほか、ロールプレイング等により受講者の理解をさらに深める内容となっています。

② 全社員向けの取り組み

「All Ribbons」が中心となり、東京・大阪で公募のパネルディスカッションや「All Ribbons Café(少人数での対話型イベント)」を定期的に開催するなど、社員が仕事と治療を両立できる環境づくりの大切さを理解する場を設けてきました。

さらに、今年は新型コロナウイルスの感染防止のためにオンラインによる乳がんセミナーを実施しましたが、今後もオンラインでパネルディスカッション等の企画も予定しています。オンラインでの実施により、全国の社員にさらに声を届けやすくなったという新たな効果も出てしています。また、全社員に対してe-learningを年1回実施し、さまざまな事例を通じて、仕事と治療の両立について当事者、周囲の社員がどのように考え、行動するかを考える機会を設けています。

こうした取り組みの結果、2019年8月の社員アンケートでは、「安心して働ける」と思う社員が96.3%となりました。このほか、会社の取り組みに賛同、応援するというコメントや、がん治療についてより理解を深め、自分ごと化しているコメントが増えており、引き続き取り組みを継続・進化させていきたいと考えています。

(2)社外での取り組み

当社のがん就労支援の取り組みについては、社内にとどまらず、社外にも積極的な情報発信や交流を通じて、両立支援の環境づくりの意義を広く伝えていくことで当社が掲げるCSV経営の実践にもつながると考えています。

2019年5月、ヒューマンキャピタル2019「健康経営EXPO」(主催:日経BP)の特別セッションに登壇し、当社の取り組みを紹介し、200名以上の社外の方が聴講、展示ブースの出展や個別説明会も開催しました。さらに同年7~9月には、当社の販売代理店、取引先を対象に東京、名古屋、大阪、福岡で「がんになっても自分らしく働ける職場環境作り」をテーマとした講演を行い、のべ1500名以上の方に聴講いただきました。当社の取り組みを通じ、職場におけるがん就労支援の取り組みの必要性を知っていただくとともに、他企業から「アフラックの取り組みの先進性に感銘を受けた」「自社にも取り入れていきたい」という大きな反響がありました。

また、他企業との交流・意見交換も活発に行っています。特に社内コミュニティの設立については、他社からも大きな関心が寄せられ、これまでに15社を超える企業や団体に対して、コミュニティ立ち上げのノウハウや運営方法等の情報提供を行いました。当社を参考に社内コミュニティを立ち上げた企業とは継続的に交流会を実施しています。また、2020年9月には業種を超えた4社合同によるピアサポーター研修を開催しました。

さらに、禁煙の取り組みについては、2019年4月にスタートした東京都の禁煙推進企業コンソーシアムに参画しています(当社以外にも民間企業20社が参画。2019年4月時点)。

今後も当社のがん就労支援の取り組みを一層進化させていくとともに、企業間の連携を図りながら、がんや病気を持つ人も仕事と治療を当たり前に両立できる社会の実現に向けて取り組んでいきます。

以上