架け橋大賞記録集

審査員からのメッセージ

「がん治療と職場の架け橋大賞」に対するメッセージ

中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)
研究科長・教授
 露木恵美子

2016年の第1回架け橋大賞の審査員としてお招きいただいて以来、4回の審査員を経験するなかで、「がん治療と職場」の関係について考えてきました。第1回目から、治療だけでなく職場復帰に尽力している病院やクリニック、がんに罹った人がどうしたら仕事を続けられるか、さまざまな制度や工夫をしている企業、そして、がん治療と仕事の両立をサポートするNPOや関係者の皆様の、多種多様な取り組みに感銘を受けてきました。特に、ビジネスの観点からは、さまざまな工夫で就労の継続をサポートしている中小企業の取り組みが印象に残りました。

心ならずしてがんに罹ってしまった人は、自分ががんに罹ったことを職場に隠そうとすると言います。病気にかかった恐怖だけでも押しつぶされそうになるのに、職場に事実を告げたら、配置転換を促されるのではないか、悪くすると解雇されるのではないかという恐怖感や、周りの人たちに迷惑をかけるかもという罪悪感の両方がその背景にはあると思われます。

一方の企業の立場からすると、貴重な人材ががんに罹ったことへのとまどいや、どのように支えていけばよいかわからないといった困惑があるかと思います。架け橋大賞を受賞した中小企業のなかには、職場ごとの工夫だけでなく、さまざまな公的な制度をうまく取り入れたり、休暇制度や時短勤務などを柔軟に使えるようにすることで、がん治療と就労が両立できる環境を整えてきた企業がたくさんありました。それらの事例は、がんと就労支援に悩む企業にとってのモデルです。ぜひ、参考にして頂きたいです。

それらの事例を学ぶなかで、大切なことは、がんにかかったから特別な対応をすることではなく、長い職業人生のなかで重い病気にかかることがある(あるいは様々なライフイベントがある)ことを前提とした準備、職場づくりであると考えるようになりました。それは、り患者にとっても重要なことです。職場に気兼ねなく病気と闘うことに集中できる職場であるかどうかということは、実はダイバーシティの基本です。

ダイバーシティあふれる職場とは、異なる価値観や背景をもった人々が入り混じり、それぞれが尊重されながら働くことができる職場です。がんを患ったということは、そうでない人よりも、病気にかかることの苦しみや将来への複雑な思いが「わかる」ということであり、同質性のなかに多様性の風を吹き入れる存在でもあるのです。そして、そういう方々の経験や知見は、実際の職場のマネジメントや顧客対応にも必ず生かされるはずです。誰もがその人らしく生きられる職場の基本がダイバーシティであり、がんと就労の両立もダイバーシティの課題なのです。

以上