架け橋大賞記録集

審査員からのメッセージ

「がん治療と職場の架け橋大賞」へのメッセージ

永江耕治

「がん治療と職場の架け橋」との関わりは、順天堂大学医学部 齊藤光江教授と一緒にビジネススクールで学んだご縁から始まりました。「がん治療と職場の架け橋」発足のきっかけとなった、2015年の”がんと就労研究グループ”から携わらせていただいています。

私自身は医療者ではありませんが、がんを罹患した患者経験と、企業の経営・人事の責任者としての経験があります。医療者ではない立場からの多様な意見を取り入れるため、という役割を期待されているのだと思っています。

がんの罹患経験がある人の就労については、時として、雇用者側と労働者側は対立構造として語られることがあると思います。ですが、経営や人事の立場の人たちも、がんの罹患経験がある人を雇いたいと思っている人も少なくないと思います。そしてそこには、たとえ責任のあるポジションにいるからといっても、自分の気持ちだけでは決められない事情があることも多いのではないかと思っています。

私も、今では副社長という役割をしていますので会社の中では相対的には上位にいて、意思決定できる範囲も広く持ってはいます。しかし、私に罹患経験があって、同じような経験をした人たちに寄り添いたいという気持ちがあったとしても、責任のあるポジションだからこそ利益相反にならない意思決定をしていかなくてはなりません。少なくとも、多くの従業員からの理解と共感を得る必要があります。雇用する人が、その給与に見合うような業務貢献をわかりやすく出来る方であれば話は簡単なのですが、そう説明することが難しいことが多いのが、がん罹患者の就労の難しさなのだと思います。もしも、能力が発揮できる人であるにも関わらず、ただ病歴で差別をされて就労の機会を奪われている人がいるのであれば、それは単純に正していけばいいのだと思います。

大企業などの資本や配置場所に余裕がある企業の場合は、その余裕のある範囲で経済合理性を超えて制度を整え、雇用をすることもできるでしょう。しかし、資本や配置場所に余裕がない中小企業の場合、明確な経済合理性がないと雇用を増やしていくのは難しいと思います。中小企業基本法で定義されている中小企業は、2016年時点で日本の企業全体の99.7%を占めていて、その中でも小規模事業者は約304.8万社あり、84.9%を占めています。0.3%の企業が素晴らしい取り組みをできたとしても、99.7%の企業が実行することが難しいのであれば、救われない労働者の数は大きな割合になります。

しかし、経済合理性を求めることが難しくても、積極的にがんの罹患者を雇用することが社会から評価されるようになれば、日本における「がんと就労」は良い方向に変わっていく可能性があると思います。「がん治療と職場の架け橋大賞」が、大きい組織の優れた取り組みを共有し、中小規模で奮闘されておられる組織を表彰させていただくことで、社会的に意義がある取り組みであることの認知につながる一助になることを切に願っています。

2020/01/12